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2006年1月 8日 (日)

古畑任三郎ファイナル

 以下は「古畑任三郎ファイナル」およびシリーズ第一話「死者からの伝言」について。
 ネタバレを含んでるので未見の方は読まないように。
 
 
 
 



 
 
 
 昨夜、録画していた古畑任三郎ファイナルを見た。
 そのまま風呂に入って、夢も見ずに寝た。
 朝、ベッドで目が覚めてようやっと気がついた。
 そうか、そう繋がるのか。
 僕はバカだ。こんな当たり前のことに気づかないなんて。
 
 いまから書くことは、ひょっとしたら誰でも気づいている「当たり前のこと」かもしれない。ひょっとしたら単なる考えすぎ、いつもの僕の妄想かもしれない。
 
 古畑任三郎というキャラは、相手の質問に答えない場合が多い。適当にはぐらかしたり、無視したり、かなり失礼な奴である。
 しかし、肝心な質問には必ず答える。それも聞いた当人が忘れた頃になっていきなり。
 
 最終話、松島菜々子演じる妹が、番組のかなり最初のほうでたずねる。
 「古畑さんはなぜ、結婚なさらないの?」
 古畑はいつものごとく、はぐらかす。
 この後、ドラマの描写で、どうやら古畑は妹を好きになってしまったらしい描写が続く。かなりコミカルかつ淡白に描かれるので、僕もあまり気に留めなかった。
 
 そしてラスト、真犯人を突き止めたとき。絶望する姉に対して古畑は、かつて自分が逮捕した女性マンガ家のことを語る。
 「彼女は、いまどうしてるんですか?」
 「いろいろありましたが、海外で幸せに結婚して暮らしている」
 「意外ね」
 古畑は苦笑いしてうなずく。
 
 そのコミック作家に、古畑は恋をしていた。
 彼女の描いたマンガを読んで、その才能に尊敬の念を抱く。そして自分のために雨の中食料庫まで出向いてスープを作ってくれる彼女。しかし古畑はそこで新鮮なタマゴを発見してしまう。
 あの時の古畑の表情は忘れられない。
 切なそうな、哀しそうな。
 古畑は彼女に恋をしていた。恋をした瞬間に終わってしまうような恋。
 だから最後の逮捕は、自分でなく今泉に向かわせた。
 
 ひょっとしたら古畑は、マンガ家の出所を待っていたのかもしれない。
 恋に生きることができる男なら、そんな器用な男なら、きっと彼女の犯罪だって見逃せたに違いない。
 しかし不器用な古畑は、彼女にすら自分の気持ちを告げず、ただ「結婚しない」という行動だけを選ぶ。
 そして待っていた。
 ところが、出所した彼女は「いろいろあった」結果、別の男を選んでしまう。
 
 たしかに刑事としての自分は正しい。
 しかし、本当にあれでよかったのだろうか?
 古畑は思い悩んだのかもしれない。
 「もう一度、同じことがあれば、その時自分はどうするだろうか?」
 
 古畑は脚本家の妹に恋をしてしまった。
 たとえ妹にとっては、単なる遊び、ビジネス上のサービスだとしても、不器用な男・古畑は自分の気持ちだけを見つめた。
 「そうでなければ、あの色は着ません」
 まっ黄色のコートを着ていた理由を尋ねられて、恥ずかしそうに答える古畑。
 被害者の妹に恋していたことを、犯人の姉に告白する古畑。
 自分が恋した人が死体であることを、見抜けなかった古畑。
 
 妹が単なるモーションで尋ねた質問だけど、古畑の心に質問が残った。
 「どうして結婚なさらないの?」
 答えは簡単だ。
 「好きな人がいたけど、その人を犯人として逮捕してしまった。彼女を待っていたけど、自分はフラれてしまった」
 その答えを、ラストシーン近くに姉に対して返す。
 「彼女は、いまどうしてるんですか?」
 「いろいろありましたが、海外で幸せに結婚して暮らしている」
 だから、と古畑は犯人を慰める。あなただってこれから幸せになれるかもしれない。絶望してはいけない。
 
 真犯人の姉にとって、古畑の不器用でわかりにくい告白は、単なるなぐさめに聞こえただろう。
 だって「なぜ結婚しないの?」と聞いたのは妹だから。
 そしてごく自然な流れで、妹も姉も同じ人間と思った古畑は、姉にも恋をしてしまう。
 だから質問の答えを、姉に返す。
 「ずいぶん昔になりますが、あなたにとてもよく似た女性に会ったことがあります」
 「いろいろありましたが、海外で幸せに結婚して暮らしている」
 これが「なぜ結婚しないのか?」に対する答えだ。
 
 「そうでなければ、あの色は着ません」
 古畑の恋は、今回も始まると同時に終わる。
 恋した相手は10分後に殺され、もう一人の相手も「自分さえ目をつぶれば助かる」のに逮捕してしまう。
 
 そして、今回も古畑は「好きです。待っています」とは言えない。
 かつてのマンガ家と同じく、愛しているのに見逃せない。そんな自分を苦々しく思うだけ。あなただってこれから幸せになれるかもしれない、とアドバイスするだけだ。
 古畑の思いは、姉にも妹にも伝わらず、それどころか視聴者である我々にすら隠すようにこっそり語られた。
 
 妹に聞かれた質問を、なぜ姉に返すのか?
 本当のトリック・謎は、トリックが仕掛けられていることすら気づかせない。
 シリーズ第一話・マンガ家の事件で古畑は恋をして、最終話・脚本家の事件で再び恋をする。
 最初と最後、両方のエピソードとも、これが古畑の恋愛ドラマである、と気づかせることもなく幕を閉じた。製作者たちの抑えた、恥じらいさえ感じさせる作劇法だ。
 
 いいドラマだったなぁ。
 お疲れ様、そしてさようなら、古畑任三郎。
 

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コメント

劇中に登場する新企画ラブポリスについても
古畑にアドバイスをもらうとしますが
そのなかで
「刑事が容疑者を好きになってしまう事はあるか?」というのは
巧妙な伏線だったというわけですね。

投稿: elrain012 | 2006年1月 8日 (日) 23時41分

そういえば古畑は彼女の結婚式でサントワマミー歌ったんでした
っけ、、、(第2シーズンの慶弔の壷の回 古畑登場の時)

ファイナルの3話のクラブのシーンで壷で殴る動作をしてたのも
意図的なんですかね?また全話見直してみたくなりました。

投稿: まことちゃん | 2006年1月 9日 (月) 18時29分

これを読んで、とても共感しました。私も、中森明菜と、松嶋奈々子の回は、ほのかな恋愛感情が漂っている気がして、とても好きな作品でした。でも、2つを結びつけて考えると、なおさら深いものが感じられることがわかりました。
現在、私は、自費出版で、「古畑任三郎」のよさを味わう内容の本を出そうと考え、準備しているところです。その中に、岡田さんのこの解釈を紹介してもいいでしょうか。私なりの解釈を書く中で、とても参考になった解釈として、岡田さんの名前も挙げて、引用させてください。
まだまだ完成までには時間がかかりますが、もしもできあがったら、お知らせします。よろしくお願いします。

投稿: 誠 | 2006年5月11日 (木) 22時55分

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