「イノセンス」私的解読
イノセンスという作品は、「バトーを主役にした寅さん映画」と捉えると理解しやすい。
前作の攻殻機動隊は、草薙素子という女性をめぐる三角関係の映画だった。
肉体をほぼ失った女性・素子と、同じく肉体をほぼ失った男性・バトー。そして最初から肉体を持たない人工知性・人形使い。
素子は自分の正体やアイデンティティのありどころに悩み、バトーはそんな素子に「俺たちは理解し合えるんだ」と寄り添おうとする。
しかし素子が最終的に選んだのは「新しい世界に連れて行ってあげる」と手を差し伸べた人形使い。
バトーにとって、映画版第一作は「一生懸命尽くしたのに振られたお話」だった。
つまり「義体はつらいよ 寅次郎さすらい編」ですな。
「お~れがお前で お前が俺で~
サイバー世界は自我不安~」
素子ぉ、ハッキングには気ぃつけろよ。
お前が電脳の世界にヨメに行ってからも、あんちゃんは公安9課で頑張ってるから心配するなぁ。
そして今回の「イノセンス」。
テーマはもちろん「バトー君のメソメソ日記」。
肉体がマッチョかつサイボーグ、おまけにセリフがぶっきらぼうでケレンみたっぷりなので、バトー君のメソメソっぷりに気づかない人も多い。
映画の手法がハードボイルドというかフィルム・ノワール。だから主人公は「運命的な悪女=ファム・ファタール」に徹底的に振り回される。
出会うすべての義体や人形に自分がかつて惚れた女の影を見る、というありさま。
最後の最後に素子が現れたときは、もうバトー君たら尻尾全開で喜んでる。
でも素子は「あなたが見てるのは、しょせん私の一部なんだけどね」(意訳)とか抜かしてすましてやがる。性根がドMのバトー君、こういう扱いされるのがたまんないんだろうなぁ。
事件後、性悪女は「でもいつも近くにいるのよ。おバカさんは気づかないだろうけど」(意訳)とか抜かして消える。残った義体だけ見て、またバトー君ハアハア。
ラストでは相棒の娘が抱きしめるお人形を見て「ひょっとしてあの中に素子が・・・ハアハア」とか考える始末だ。
ちなみに、この映画に限らず、押井アニメの主人公はみんな、他人を言い負かすとか手玉に取ることばかりを考えている。押井監督、素晴らしいドSっぷりですよ!
冨野監督の「ドM映画」とは対照的だよな。
と、このように「ドMのマッチョが性悪女に振り回される映画」と考えると、「イノセンス」は難解でもなんでもない。
それでも難解だ、と誤解される理由は、「まさかサイバー未来を扱ったアニメで、こんなメソメソした話をやるとは誰も思っていない」ということと、「監督の性癖(ドS)と思想を混同している人が多い」からだと思う。
押井監督というのは、理性以上の「情念」でちゃんと映画を作れる人なんだよね。照れ屋というか独特の韜晦な発言でわかりにくいけど。
ほら、全共闘世代だから。
・・・と、こういう話を考えて公開収録に臨んだんだけど、とてもこんだけ語れる時間なかったんだよね。
なので、サワリだけ発言してきました。
どれだけ残るかは明日のオンエアをお楽しみに。
でも質疑応答時のIG石川社長が
「IGはね、押井監督と映画を作り続けて、それでもつぶれなかった会社なんです!」と誇らしげに語ったのはよかったなぁ。
なんて素敵なドMカミングアウトなんだろう!
押井監督とは理想のコンビネーションですよ、マジで。
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コメント
内容がかぶっています。
投稿: す | 2006年5月 4日 (木) 05時06分
その意味では、押井監督作品に出資し続けたバンダイ(ビジュアル?)も凄いと思う。
バンダイはかつてあのアップルに関わって、潰れなかった体力のある会社だから、そのくらいはどうってことないのかも知れないけど。
投稿: take | 2006年5月 4日 (木) 23時46分
性欲満たすためのロボットが不細工すぎだと
おもいました。あんなのじゃ勃起しません。
投稿: 義春 | 2006年5月 5日 (金) 18時12分
まさしくその通りだと思っていましたが、「寅さん」という喩えは思いつきませんでしたw
BSアニメ夜話は、DVD化されたりしないですかねぇ、BS観れない環境なので評判の良かった回だけでもDVD化されると嬉しいなぁとか思います。
> takeさん
> 性欲満たすためのロボットが不細工すぎだと
> おもいました。あんなのじゃ勃起しません。
それも押井監督のドS根性なんですよw
投稿: みかげ | 2006年5月 5日 (金) 19時22分
なるほど。
岡田さんや押井さんや漫画夜話のメンバーはとことんドSですね。
対照を丸裸にしなければ気がすまないような。
自分が丸裸にならなければ気がすまない富野さんや庵野さんはドMということですね。
投稿: もま | 2006年5月 6日 (土) 05時07分
読み返してもやっぱり同じ内容が繰り返されてますよね? コピペの失敗?
投稿: 長谷川一成 | 2006年5月 6日 (土) 23時11分
あ、ほんとだ。修正します。
投稿: 岡田斗司夫 | 2006年5月 7日 (日) 00時02分
アニメ夜話楽しく拝見しました。
イノセンス=寅さん
イノセンス=ハードボイルド
というのは非常に共感できるのですが、
寅さん=ハードボイルド !?
というのは新鮮な発見でした(笑
あと「王立宇宙軍」はやっぱりいいですね。
中学生の時に見たこの作品が自分にとって他の作品を評価する上でのゆるぎない「モノサシ」となっちゃってますけど…
投稿: 山師ナオ | 2006年5月11日 (木) 00時19分
王立はセリフがいい!
我々の生活実感にぴったりと合っている。
とくに冒頭の「やる気の無い公務員」たちの会話は、大阪市の職員たちが言っているんじゃないかと思われるぐらいすばらしい。
「ここはいいとこさ。適当にやってりゃ食えなくなることはねえからな」
投稿: Inoue | 2006年5月11日 (木) 19時26分
ものすごく興味深い説でした。その比喩、新鮮。そして、最高!
同時に、あまりに「な~るほど!」だったので、本来の話とは少々ズレるのですが、トラックバックさせてくださいね。
投稿: noho_hon | 2006年5月12日 (金) 10時05分
初めまして、書き込み失礼します。いつも著書を楽しく拝見させて頂き、BSアニメ・マンガ夜話も同じくです。
それで今回のイノセンスについてなのですが、分かり易い説明で大変面白いと感じました。ただ、一つ疑問に思うことがありまして、本当に草薙素子は“性悪女”なのでしょうか?
僕はED『Folliow me』を聞いて、素子はバトーに認めて欲しかったのに、素直にそれを言い出せない“可愛らしい女”だと思いました。そう考えると最後の「いつも、そばにいる」の辺りのセリフは素子なりの愛の告白だったのに、バトーは不器用すぎて気付けなかったのでは?とか思えてきました。僕の見方が悪いんでしょうか?
長々と申し訳ありません。少し疑問に感じただけなので全然スルーして頂いて結構です。では失礼します。
投稿: A2C | 2006年5月12日 (金) 16時35分
王立はどうも・・・既にライトスタッフ読んでたりアポロなんかも子供の頃から知ってたので・・・ウーンでした。
当時MG誌で製作報告の連載を見てましたが、それ読んで見ても食指はソソりませんでしたね。なんか、ハズしてるよって感じで。
あ、音楽は良かったですよ。教授だし。
もちろんトップは見てハマりましたよ。あれは最高でした。
投稿: みかん | 2006年5月13日 (土) 20時12分
>ラストでは相棒の娘が抱きしめるお人形を見て「ひょっとしてあの中に素子が・・・ハアハア」とか考える始末だ
あのーどこをどう眺めるとこういう読みができるのか、実にわけわからんです。だって、バトーは人形と相棒の娘を等価のものとして(一瞬)眺めていたのだから。
王立はあまり買えません。『イノ』が寅さんなら(この説には実は重大な欠陥がある)、王立は蒲田行進曲とどっこい。
投稿: '774 | 2006年7月 2日 (日) 19時49分