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2006年9月26日 (火)

「クリエイティブで食う」の4段階

 大学でこないだ、「クリエイティブな仕事には4段階ある」という話をした。
 マンガやアニメにかかわる仕事を「お金」という切り口から定義したものだ。
 業界の定説ではないし、こういう定義づけをしている人は他にいない。僕だけが言ってる意見なので、内容についての当否はそれぞれが考察すること。
 
 「クリエイティブな仕事」には4つの段階がある。
 第1段階は「才能労働者」。工員や職人と同じく、働いた時間分や出来高だけお金をもらう。「才能」を使うけど内実は労働者と同じ。
 アニメーターやマンガ家のアシスタント、といえばイメージできるだろうか。無記名ライターなどもこれに含まれる。
 作ったものに自分の権利はなく、そのかわり責任もそれなりに軽いし仕事仲間もできやすい。
 
 「才能労働者」が進化すると第2段階の「クリエイター」になる。作った作品の権利(一部または全部)を持つ人。
 作品の内容に決定権を持ち、「働いた時間分」ではなく「出来上げた完成度」や「いち作品いくら」の契約でお金をもらう。
 作品がヒットすれば版権収入で食えるけど、ヒットしないと仕事の依頼が来なくなるところは「才能労働者」より辛いところ。
 「俺の作品」と言う権利もあるけど、作品が成功しても失敗しても批判にさらされる。
 
 クリエイターが進化したのが第3段階「コンテンツ・ホルダー」。なんだか日経っぽいしゃらくさい表現だけど、ようするに「権利者」のこと。
 円谷や石ノ森プロのように、過去の作品からの収入が保証されている状態にあるクリエイターまたは元クリエイターまたはその関係者。
 昔、大ヒットを飛ばしたけど今は仕事していないマンガ家もこれに含まれる。
 「単なる過去の作品」にならないように、定期的に新作(新シリーズ)を作るのが大事。
 
 そして進化の最終形態が第4段階の「ブランド」。判りやすい例ではディズニーが第4段階。
 この段階ではもはや新作を作る必要もない。ディズニーファンと称する人の大半は「なんとなくメジャーなキャラだから好き」なだけだからだ。
 (「蒸気船ウィリー」や「飛行機狂」など見たこともないんだから、ディズニーアニメが好きなんじゃないのは確実だろう)
 「ブランド」の段階になると、もはやクリエイティブな仕事とはいえなくなる。「商品化の許諾」がメインの仕事。
 つまり「いいモノ」「面白いモノ」は他の会社が作って、それに対してディズニーの看板を与え、次の投資対象を探す、というのが仕事のキモだ。
 
 さて、ここまで話したら「じゃあブランドがラクチンでお金も儲かりそうだから、ブランドになりたい!」と思う人も多いだろう。
 しかし、である。実は段階ごとに固有の「面白さ」「辛さ」があるから話はややこしい。
 
 「才能労働者」はたしかに金銭的には恵まれない。でも仕事をいつまでも好きでいられる。
 仲間もできるし、センスが古くなったから仕事がない、という心配もない。才能が少なくても、努力で補える。
 
 「クリエイター」には「作品を作る」という喜びがある。作品の当たり外れはあらゆる博打の中で一番スリリングで甘美だ。
 しかし、ヒットできないと自分自身が否定されるみたいに辛い。
 
 「コンテンツ・ホルダー」はそういう浮き沈みの世界からいちおうは解放された「成功者」である。
 一作品ごとのヒットや不発に右往左往されず、長期的な戦略で考えられる。
 
 「ブランド」までいくと、クリエイターとしては「上がり」だ。村上隆はこれを狙って努力して、ほぼ達成しつつある稀有な日本人である。
 しかし逆に「これまでのイメージを崩す」とか「新境地に挑戦」とかは求められてないし、許されない。ブランドとは「世界最先端の伝統」みたいな矛盾したものかもね。
 
 さて、「仕事が面白い」とか「生きがいがある」というのは、実は「才能労働者」「クリエイター」の段階が一番だ。
 しかしお金が儲かるのは「コンテンツ・ホルダー」や「ブランド」の段階。
 
 第1~第4へと昇るにつれて財布はそれだけ重くなるけど、同業者の友人の数は減少する。
 歌手でもお笑い芸人でもスポーツ選手でも、成功すると他業界の友人作りたがる、という傾向があるでしょ。
 あれは第2から第3へステップアップしている証拠だね。第1段階では同業者の友人がなにより大事だったのにね。
 
 「自分の思い通りの作品」を作りやすいのは第2・第3段階だけど、この二つの段階でみんな身体か心を壊す。忙しすぎるからだ。
 第1・第4段階は「なんとなく自分がいなくても別に代わりはいくらでもいるんじゃないか」とか悩んでしまう。
 単純に第1がダメで、第4が成功かというと、そうでもないのが面白いところだ。
 
 「だからね」と僕は大阪芸大の学生に説明した。
 「自分はどの段階を目指すのか、これからずっと考えた方がいいよ。なにも考えず、この段階を昇っていっちゃうと辛いこともあるから。
 好きな仲間たちとワイワイ楽しみたいのか。自分だけの世界を評価されたいのか。成功して世間を見返したいのか。
 どれも立派な動機だし、どれが正しくて間違ってるという区別はない。でも『自分には合ってない』という区別はあるはずだ」
 
 まだクリエイターとしての入り口に立ったばかりの彼らに、ここまで教えるのは酷なのかも知れない。
 でも、こういう話もあってこその「クリエイティブ論」だと思うので、僕は大学でこういう面倒な話をするのである。
 ね、わりと「いい先生」してるでしょ?

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コメント

クリエイターの一人ですが、この論、興味深く読ませていただきました。
作品はまさに博打。毎作品ごとに人生かけまくって、そこらのパチプロよりよっぽどギャンブラーだなあと思います。そして確かに甘美。で、今30代後半ですが、そろそろスタミナもつきてくる頃。果たして次のギャンブルは半か丁か?
僕の場合、ブランドになりかけた集団をつぶして個別に次の活動を展開しています。クリエイターでいたい気持ちの上の行動ですが、賭博の徒のつらさもしみいってきてます。岡田さんはご自分はどの位置だと思いますか?

どこまで博打を続けられるのかまさに博打の人生です。

投稿: バルバル | 2006年9月26日 (火) 23時11分

大阪芸大に反応してコメントしてしまいました。

現在は、システム屋になってしまいましたが、
私も10年ほど前まで、大阪芸大の音楽学科の学生でした。

当時、芸大の学生は卒業しても技で食べていける人はほとんどいなかったと思います。
これは、音楽やデザインの技術は教えても、マーケティングを教えないからだと思います。

せっかくの技術をどう売って行くかわからず、
夢をあきらめて別の道へ行く学生が少なからずいると思います。

夢を実現させる為の「クリエイティブで食う」方法を教えてあげて下さい。

応援しております。

投稿: ひろかわです。 | 2006年9月27日 (水) 10時21分

 わがニッポンでは“孤高にしてビンボーなブランド”が多すぎませんこと?

投稿: あおきひとし | 2006年9月27日 (水) 10時44分

見る、言う、聞く、の三つの内の、「見る」ですね。同じ目を見るか、違う目を見るか。

投稿: おさる | 2006年9月27日 (水) 18時27分

Google AdSenseで大儲けしている個人のリストといった情報を見て、クリエイターの新しい食い方ってのもあるのじゃないのかなー、と思いました。
ネットに通じた作家が、自分のブログ内でアマゾンのアフィリエイトリンクを使って自分の本を売っているのを見たりしますと、最近では売り方もいろいろだな、と思います。

投稿: delta16v | 2006年9月27日 (水) 22時47分

パチパチ(拍手音)

投稿: ガリオレ | 2006年9月28日 (木) 16時58分

これは、クリエーターには言っちゃいけない話だと思う。第 3 、第 4 段階は、実はクリエーター以外の人がやってる事が多く、かつ、利益も得ているから。例えば、音楽業界での版権管理会社だとかさ。著作権についても同様。つまり、この話は、クリエーターでない人がクリエーターな人を利用して金を儲ける方法でもあるんだ。

投稿: けも | 2006年10月13日 (金) 04時06分

興味深い話です。

ワタシは、企業活動の中でもっとも生産性の低い仕事というのが「クリエイティブな仕事」だろうと最近思っています。忙しすぎて身体を壊すというのも、その証拠なんでしょうね。
スタジオジブリで働いているアニメーターたちが月給10万円ぐらいだとどこかで読んだ記憶がありますが、あれほどのヒット商品をつくる会社の賃金がそのていどだとしたら、あまりにも生産性が悪過ぎる。ブランドとしては確立されているんでしょうけれど、事業モデルとしては「×」といわざるをえません。

いっぽう、かのトヨタでは、臨時雇い従業員ですら月給20万円以上をもらっているのですよね。この会社のライン仕事というのは、決められた手順通りにひたすら作業をくりかえすだけの「非クリエイティブ」な仕事で、それはそれは非人間的な労働ですが。生産性はものすごく高い。
それでは、ライン仕事に創造性というものが1%もないのかというとそうではなくて、彼らは「カイゼン」活動で、決められた枠組みのなかで小さな小さな創造を積み重ねている。

土台、人間の一生なんて大半がおなじことの繰り返しで、けれど、そのなかにも「カイゼン」というか小さな創造を発見できることが可能なものなんだろうと思います。

投稿: ひかりごけ | 2006年10月20日 (金) 13時05分

精神世界の人にも、自分たちの世界に篭らず。無駄な修行に、時間や労力を余り使わないよう、プチクリな生き方を薦めています。
 精神世界にはクリエイテイブな人は多いと思いますが、それを表現しないとただの変人で終わってしまいます。
 プチクリとしてでも表現すると多少は、認められた変人になれるのでは無いでしょうか?
 そこで岡田氏のこの文章を読むことを薦めています。

投稿: 宰予 | 2006年11月 3日 (金) 07時57分

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