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2006年11月 6日 (月)

「ガンダム講談」と考察

 先月16日(月)に大阪・ナンバまで「ガンダム講談」を見に行ってきた。
 
 僕が落語をやろうと思ったときに、まず最初に思ったのは「ガンダム落語は可能か?」ということだ。たぶん先達も多くいるだろうはずけど、いまだに「これが面白い!」という噂は聞かない。
 落語家でガンダムやウルトラマンやガメラが好きな人もいるけど、そういう人の「好き」という気持ちが、その人の落語に面白く反映されているかもよくわかんない。
 すっごく面白いオタク落語があれば、噂ぐらい聞こえてくると思うんだけど、少なくとも僕は今まで「面白いオタク系古典芸能」は知らなかった。
 
 僕が「落語をやろう」と決意したときに、「ではいずれ、僕はガンダム落語をやるのか?」と自問自答し、その疑問に答えるべくネットをいろいろ探して見つけたのが、講談師の極堂南半球氏だ。
  http://www.kcc.zaq.ne.jp/hankyu/

 見てみたい。
 素直にそう思った。
 ガンダムを自分の古典芸能と正面からぶつけようとしている。その姿勢が面白いと思ったからだ。
 大阪には毎週、金曜に行っている。正直、それ以外の日にまた行くのは体力的にもキツい。でも、それをおしても「行くべきだ」という予感がした。
 
 当日、早めに着いたのでNGK(なんばグランド花月)、つまり吉本興業の総本山で昼の部を見る。漫才や曲芸など、まず「普通の演芸のレベル」を頭に入れておこうと思ったからだ。ふうん、NGKを見るのは本当に久しぶりだけど、やっぱり面白い。
 これと「ガンダム講談」を比較するのは酷かもしれないが、とりあえずお金とって客に見せるからには、プロと比較されるのは当然。おまけに僕にしても、どっかに比較の基準を置いて見ないと、その面白さが「ガンダムが好きだから面白いのか、はたまた講談や舞台として面白いのか」がわからなくなる。
 
 とまぁ、上記のような視点で会場に入った。つまり、僕は「ファン」というよりも「分析・批評してみる」という視点でイベントに参加したことになる。なのでこれよりのレビューは、かなり「批評的な視点」であることに留意して読んで欲しい。
 
 会場のトリイホールは、かなり手狭な演芸場。狭い会場というのは、客席に一体感がおこりやすく沸きやすい。
 パイプ椅子が並ぶ客席に座りまわりを見渡すと、意外にも「普通の人」が多かった。てっきり「大きなお友達」つまり見てくれが僕と大同小異なお兄ちゃんたちがいっぱいと思っていたのに。カップルや女性客もかなりいる。
 
 開演。
 舞台に登場したのがミニスカの女の子。正直な話、絶世の美少女というよりは、山田花子を可愛くした感じなんだけど、なにより動きがキビキビしていて目を奪う。あ~、さすがに舞台に立つ人というのは違うな。
 ぺこりと頭を下げて、注意事項を暗誦する。
 「公演中の携帯電話の使用は、南極条約で禁止されています」とちょっと困った顔で語る。不安げだった客席が、いっせいに沸く。
 こういう場にくる客というのは、どうしても最初「さぁ、笑わせられるんだったら笑わせてみろよ」という距離を置いた態度になる。だからなにより最初に「笑ってもいいんだ」という雰囲気を作るのがなにより大切。
 この女の子の挨拶イッパツで会場の緊張感がゆるんで、なんだか楽しい雰囲気になってしまった。見ている僕もほっとする。
 
 こういうイベントで難しいのは、観客の「沸点差」だ。
 演者としては観客の「笑いの沸点」が低ければやりやすかろうと思うかもしれないけど、とんでもない。特にオタク系のイベントでは、会話の一部にガンダムのセリフが出ただけで笑うような、あまりに沸点の低い客は、他の観客を引かせてしまう。
 沸点の低い客、すなわち「すぐに笑う客」というのは場をしらけさせる。ファンの女の子にだけ受ける芸人をテレビで見たときの寒い感覚を思い出して欲しい。

 「いまのギャグ、俺はわかったよ!」とアピールのつもりで誰よりも早く大声で笑う客がときどきいる。あれほど演者や他の観客に嫌われている存在もない。悪気はないのはわかるし本人はイベントを充分に楽しんでいるだけなんだろうけど、まことに迷惑な存在である。
 
 ガンダム講談にはそこまで迷惑な人はいなかったけど、観客席は自然といくつかの沸点層に分かれはじめた。
 「第1層:ガンダムネタが出るたびに笑い出してしまう人たち」
 「第2層:ネタが笑いのツボにはまると笑う人たち」
 「第3層:第1層が笑うたびに『こんなレベルでは俺は笑わないぞ』と頑なになる人たち」
 理想を言えば、第1層の観客はゼロであることが望ましい。第1層がゼロであれば、第3層は発生しないからだ。
 逆に第3層の発生を抑えるには、早い目の段階で「ガンダムネタ」以外で一度観客全体から大うけを取る必要がある。オタクっぽいネタ以外で全体を笑わせてしまえば、沸点層はひとつにまとまり、「一体感のある観客」になる。
 これは別にガンダム講談だけの話ではなく、あらゆるライブに関して言えることだけど「客席の一体感」さえ作れれば、あとはなにやってもウケる。
 一番大事なのはネタや技術ではなく、「観客と演者の共犯感覚」なんだよね。
 
 さて、最初の演目は旭堂南半球による「ギレン演説;ガルマ国葬」。
 はじめて目にする南半球氏は小柄な男性で、声量も思ったよりずっと小さい。そのため観客としても耳を済ませて聞き入るしかなく、そのおかげでかなり緊張感のあるステージになった。
 しかし、クライマックスの「諸君の愛してくれたガルマは死んだ!なぜだ?」の問いかけに「受け」のパントマイムが入ると、客は吹きだして一気に緊張がとける。この「緊張感のコントロール」はかなり面白い。 ただし、演説自体が短いので、この「いいところ」が過ぎたらすぐに演説は終わってしまう。もうちょっと聞きたかったなぁ。
 
 で、次の演目は、最初に前説したミニスカ娘の歌謡ショー「恋のビームライフル」。歌も踊りも、とにかく客の目を引きつける魅力がある。「ガンダム講談」と銘打って歌謡ショーを楽しんでいいのか迷ってしまうけど、前後左右の客は200%楽しんでいた。
 意外といえば失礼かもしれないけど、歌やダンスが意味なく上手いのでなんだか納得されてしまった感じ。
 
 続いて本日のメイン1。「ガンダム講談;宇宙要塞ア・バオア・クーの戦い」。
 ドダイYS型の演台が組み立てられ、会場の期待は盛り上がる。演者の南半球氏があらわれ、「ジーク・ジオンの鬨の声」から一気にア・バオア・クーの空域を取り囲む状況を修羅場読み。「あがるところのメガ粒子砲の壁にてちょうど曇り陽のごとく相成り」のくだりで満場は息を呑む。
 講談といえば出てくる武者の戦装束、すなわち「黒革縅(おどし)の鎧がなんたら」みたいな全身上から下までのいでたちをざーっと語るのが勘所。
 これも名調子でアナベル・ガトーのゲルググ装備を「馬手にビームライフル、弓手にジャイアントバズーカ、腰に差すマシンガンを負い、兜にマシンガン用の角飾り金覆輪縁取りなしたる柳の刃のシールド背に負い小高きところに駒を乗り上げれば・・・どぎょ~~ん(モノアイの効果音の口真似)」で一気に笑いを取った。
 金覆輪縁取りなしたる、ってアンタそれは保元物語ですか?
 これはもう解説するより見てもらうがいいんだろうね。
 演者自身がTouTubeのアドレス書いてるから、気にせず紹介します。

http://www.youtube.com/watch?v=i1ywPFclLI4
↑『恋のビームライフル』動画

http://www.youtube.com/watch?v=6NCrQyikakg
↑『ガンダム講談 ア・バオア・クーの戦い』動画

 
 で、次が「ガンダム大喜利」。演目を見たときは「ええっ、なんかスベりそうでイヤだなぁ」と思っていたけど、終わった後で思い出したら、これが一番楽しかった。
 「こんなホワイトベースはイヤだ! どんなホワイトベース?」
 「左舷弾幕薄いよ!なにやってんの!? なにやってる?」
 いや~、こんなオタクネタであんなに笑えるとは、アニメファンやってて良かったなぁ。俺の人生は間違ってなかったよ、うん。
 
 続けてまた歌謡ショー「恋のジェットストリームアタック」。
 いや・・・バックダンサー3人が可愛いけど、とてつもなくヘタ!
 舞台に上がってきたときに顔を見合わせて照れ笑いしてるよ!
 素人さんですか!?
 もう客席もドキドキして「こいつら、絶対にシロウトや!」と突っ込みたいのを必死で我慢している。舞台の上も我慢、客席も我慢と、お互いに「早く終われ!」と強く念じた3分間だった。
 しかし、これがあんがい面白い。いままでずっと、なんだかんだ言って芸的には上手いのが続いたので、このとてつもなくヘタクソなダンスにも「意図」を感じさせれてしまったからだ。
 つまり、ここまでヘタクソということは、ジャイアン・コンサートみたいに『いかにヘタかを皆さんお楽しみください』と言われたような気がしてしまうのだ。
 
 唖然呆然のステージが終わって、次はコント「ジオン女子校」。
 もうガンダム講談もへったくれもないような出鱈目な構成であるけど、演者・南半球氏のやりたいこと、つまり「メインディッシュは講談でちゃんと締めるから、あとは好き勝手に楽しませる」というコンセプトが伝わってきたので、もう客席は安心して笑い転げている。
 女子高でザクの操縦法のコントで、ノリとしてはドリフっぽい、とでも説明すればいいのかな?かなりおバカな光景でした。
 
 中入り(休憩)のあと、はじまったのはド演歌「光る宇宙の深情け」。
 エルメスの被り物を頭に載せたドレス姿の艶っぽい姐さんが切々とララァの心情を謳いあげる。振り付けも意味なく色っぽく、歌も完全に演歌、それも石川さゆりの「津軽海峡冬景色」みたいな本格的な奴。
 バカだ。バカすぎて素晴らしい。
 
 ラストは講談「ジオン〇八連隊記~めちゃめちゃ頼もしいジオンの隊長~」。
 トリを締めるのにふさわしい大ネタで、本来の戦記もの講談、すなわち軍談の特徴である「輝ける時代を謳いあげることにより、現状を批判する」とか「報われず果てていった男たちへの愛惜」みたいな情念があふれていた。
 
 
 と、思い出すだけで楽しい1時間半だったけど、「惜しい!」と思った点もいくつもあった。
 
 まずメインの講談の極堂南半球氏。
 声量がやや不安で、声質に「艶」というか「もっと聞いていたい」という決め手に乏しい。僕はシロウトなので、これは生まれつきの肉体的気質の問題なのか、それとも純粋に練習量の問題なのかはわからない。
 コントや大喜利など、南半球氏の「ネタと構成力」は抜群であるのはわかった。だから、とにかく「聞き惚れる声」の開発を急いだほうがいいと思う。「声」をもっと魅力的にしたら、ギレンの演説は今よりずっと素晴らしく仕上がるよなぁ。
 
 ああ、でも偉そうに分析しても、落語家としての僕の「声」も、これはもう論外なんです、すいません。
 
 あと、演目ごとに入るナレーターの演目読み上げ、これが意味不明。
 「ガンダム講談、始まるよ~」と、か細い独特の節回しで言うんだけど、なんだかこれ聞いて困っちゃった。ひと言でいうと「素人劇団っぽい匂いがした」ということだろうか。(見ている関係者、ごめんね)
 後に「劇団ガンダム」の舞台DVD見せてもらったら、いつもこの女性が不思議な声でナレーターやってるのを知ったので、おそらくその「流れ」だと思うんだけど、そんなの初見の客や僕にはわかんない。そういう不思議な感じがイイんですよ!という人もいるとは思うけど、僕は「劇団っぽい」文化には属していないので、その面白さが理解できず、不安な気持ちになっちゃった。
 
 あと、自己紹介やパンフに書いてある演者の芸名。
 ガトー、アカハナ、ガンキャノン、シャアザク、ニイラ、ガルマ、ドズル、ミハル、ルールカ・・・
 あとで聞いたんだけど、共演していた劇団ガンダムの俳優さんたちはそれぞれ本家の劇団ではちゃんとした芸名があるそうだ。でも劇団ガンダムとして活動するときだけ「ガンダムネーム」というのを使うそうだけど・・・
 すいません、正直、イタいです・・・
 エレベーターで他のお客さんも「あれはちょっと」と言ってました。
 なんかそういうマイナーなお遊び、かえってジャマに感じてしまう。
 提供している芸はちゃんとしてるんだから、無理に遊ばなくてもいいよ。
 ちゃんと美味しい味を出すラーメン屋は、メニューにヘンなシャレ使わないでしょ?
 「トンコツのトンでもなく美味いら~めん」とかさ。
 
 
 最後にこれは僕自身の自問自答。
 ガンダム落語って、たぶんかなり難しい。
 「落語のパロディ」とか「ガンダムのパロディ」になっちゃう。
 ガンダムのセリフや世界観が出るだけで喜ぶ客層を相手にする、と決めてしまえばなんとか成立するかもしれないけど、僕には向いていない。
 それはつまり「古典落語をガンダム世界で展開する」ということであって、基本的には「古典落語を現代に通用するようにリメイクする」というアプローチと同じだからだ。そういうのは既存の落語家がやるべきことであって、吉祥亭満月の目指すべき「新しい話芸」ではない、と思う。
 
 なんか最近、落語の話ばっかりだね。
 では、今からまた練習します(笑)
 

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コメント

ガンダム落語は、立川流二ツ目、志らく一門の立川こしらが何本か演じています。
代表作は「時ザク」で、一人のジオン兵がザクを買いに行く話です。ストーリー展開は「時そば」に沿ったもので、合間のギャグは、単にガンダムのネタを持ってくるのではなく、それを素材にして、ガンダムのことを知っていれば、それは面白いネタの扱い方だ、と思わせられるものがあります。
こしらさんの芸風は、今度岡田先生が一緒に落語をやる白鳥師匠に似た所があり、落語のことをあんまり知らない、自分のセンスで落語を語っていく、と言った所です。

投稿: 雅・弘 | 2006年11月 6日 (月) 20時42分

雷門獅篭さんが今年のと学会大会で長年封印していたオタク落語を披露していましたが、地噺中心で古典パロディの「ガンダムたがや」よりも前夜祭で演じた「おたく寿司」という新作がキッチリ上下振って落語らしく仕上がっていたので妙に感心しました。
どのジャンルでも基礎が出来ていないトコロへいきなりパロディを持ち込むのは相当に危険がともなう気はします。

投稿: 山師ナオ | 2006年11月 6日 (月) 23時16分

 岡田さん、本当に楽しかったんですね。
文体がもう、嬉しすぎて勢いを止められない、
片言の標準語且つ早口でまくし立てる関西のヲタにーちゃんそのものでした。

投稿: ザボーガー1号 | 2006年11月 6日 (月) 23時17分

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